Miracle Day

「なあ、ホンマについていったらアカンの?」
 外出の支度をはじめた光一の背中に懲りもせず剛は声をかけた。
 
今日、彼はオフだっだ。一方の光一は単独でCFの仕事が入っていた。
「しつこいぞ剛。アカンって昨日からなんべん言わすんや」
 クローゼットの中からアレコレと上着を選びながら、昨夜から続く剛の『ついていきたい』攻撃にいささかうんざりとしながら、振り返りもせず光一は答えた。
 何も単独で仕事をするのはコレが初めてのことじゃない。ただ、一人がオフで一人が仕事―――というのは初めてのような気がする。

 12歳で天下のアイドルプロダクション『ジャニーズ事務所』のオーディションに合格し、当時の大人気アイドルグループ“光ゲンジ”のコンサートでお互いを知りユニットを組んだ。その後、ジュニアの一員として多くの先輩達のバックを務め、そして“KinKi Kids”という名前を与えられてから早6年あまり……常に一緒だった。
 嬉しい事は2倍になり悲しい事は半分になった。そして辛い事は……二人して乗り越えてきた。別々の仕事の時は心細さを『アイツもがんばってんねんから……』と、自分を励ます材料に変えた。
 きっとそれは剛も同じだと思う。
 だから彼の言い分は、光一にだって良く解る。
 自分も一人おいてけぼりを喰らうのは淋しいしイヤだ。同じ立場になればきっと同じことを言ってしまうだろう―――と思う。

 色白の優しくたおやかな面差しで、童話の世界から抜け出たような光一と、黒いアーモンド型の意志の強さを感じさせる、いかにも聞かん気そうな剛。外見の良さもさることながら、アイドルらしからぬ大阪弁丸出しの物言いと、関西人特有のノリの良さで、二人は瞬く間にトップアイドルへと成長した。
 常に新しい事にチャレンジしつづける彼らに与えられる仕事はバラエティに富んでいた。それ故、毎日のスケジュールは分刻み。オフなんて夢のまた夢の話。移動の車の中で束の間の休息を取りながら仕事をこなす―――と言う事のほうが多のである。
 この前のオフが何時だったかなんてことも、手帳をめくるかマネージャーに聞かなければ判らないほどで、丸一日のオフなんて本当に久しぶりの事だった(たとえそれが片方だけとはいっても)。それに、このオフを逃せば次のオフは何時になるのか判らないのだ。
 それほどまでに、超売れっ子アイドルの二人のスケジュールは詰まっている。
 久しぶりのオフだからこそ剛には少しでも身体を休めて欲しかった。
 剛の疲れた顔は見たくない。
 彼にはいつも明るくいて欲しい。
 剛の屈託の無い前回の笑顔こそが光一の活力の源だったから。
 漸く上着を選び終えた光一は剛に向き直り「ちょっとソコ座り」と目でソファーを指し、自分も上着を手に剛の向かいに腰を下ろした。
「邪魔せぇへんって言うてるのに……それでもアカン?」
 伺うように剛が聞いた。
「アカンって言うてるやろ? 今日はごっつうマジなCF撮りやねん」
 光一の言葉を静かに聞いていた剛の瞳が色を失い、頭が徐々にうな垂れていく。それはそれは悲しそうに肩を落とし、膝の上に置いた手が拳を形作る。
 そんな顔を見たくて言ってる訳じゃないのに……。
(まるで俺が意地悪言うてるみたいやんか――――)
 光一は気付かれないようにため息をついた。
「剛の気持ちはよう解るし、嬉しいよ」
「それやったら……」
 一縷の望みをかけるように、光一の言葉尻を受けとって顔を上げた剛の瞳に、ほんの少し明るさが戻る。
(そんな顔すんなやな、言い出しにくうなるやんか)
 そう思いつつも、心を鬼にして言葉を舌に乗せる。
「あのな、今日は久しぶりのオフなんやし、ゆっくり身体休め。溜まってるビデオ見たいって言うとったやろ?」
 本当ならこんなこと言いたくないのだ。剛にだってよく解っている事だから。
「―――――」
「明日から又、忙しいんやで。今日は撮影が終わったら飛んで帰ってくるし。な? 大人しい待っとって」
「イヤヤ……」
 剛はキッとした瞳を光一に向ける。
「お前、困らせとうて言うてんのとちゃう。オレのこと気遣ってくれてんのよう解ってる……けどな」
 返ってきた言葉は瞳の強さを裏切って小さな呟きだった。
「剛?」
「せっかくのオフやのに、お前がおらへんかったら淋しいやんか。一人でビデオ見てもつまらんだけや。オレ一人で何しとけって言うん?」
 ポツリ、ポツリと言葉を選びながら自分を見つめる瞳が悲しげに曇っていくのを見ていると、光一にはそれ以上、拒絶の言葉を言う事が出来なかった。
 剛の気持ちが嬉しくて、いじらしくて……二人の間を隔てているガラスのテーブル越しに剛を引き寄せ、頬に軽く唇を押し付けた。
「正直言うと俺かってね、一緒におってもらいたいよ。そやけどどないしたらええんや? 邪魔せぇへん言うてもなぁ……」
 ドサリとソファーに凭れて、柔らかい栗色の前髪をかきあげた。
「メルモちゃんみたいに、大きなったり小さなったりできたらエエのになぁ」
「何をアホなこと言うて……ってちょっと待てよ。アレって“青い”キャンディが小さなるヤツで、“赤い”キャンディが元に戻るヤツやったなぁ」
 と光一が目をやった先と、
「違うって、反対や反対! 赤いキャンディが……キャンディ?」
 と剛が呟いて目を向けた先は、奇しくも同じ場所。
 二人の間にあるガラスのテーブルの真ん中に置かれたキャンディポット。
 数多くのステージやトーク番組をこなす二人の喉を心配してファンの子が送ってくれた物だ。
 中には赤と緑のセロファンで包まれた、何の変哲も無いノド飴が入っていた。
 二人は顔を見合わせる。
「これ食べたら……」
「もしかして―――」
 同時に言葉を発して、同時に首を振る。
「そんなコトあるわけ無いやんか。俺、こないだ食べたもん。ああ、もうこんな時間や……」
 結局、コレといった解決法も見つけ出せないまま一人ごちて光一は立ち上がる。
「そやな」
「ゴメンな。絶対、飛んで帰ってくるから……」
「うん。オレの方こそ無茶言うてゴメンな。大人しい待ってるわ。頑張ってな」
 玄関に向かう背中に声をかけながら、何気なく剛はキャンディポットから飴を取り出しポンと口の中に放り込んだ。

「ほな、行って来るわな」
 下駄箱の隣に置いた姿見で全身をチェックし、靴を履いた光一はリビングを振り返った。
「剛? 剛!」
 今の今まで座っていた場所に剛の姿が見えない。
 慌てて靴を脱ぎ捨てリビングに駆け戻る。
 あるのはフタが外れたキャンディポットと緑色のセロファンだけ。
 忽然と――――剛の姿だけが消えていた。
 バスルーム、トイレ、それぞれの寝室にベランダ―――手当たり次第に探し回ったけれど何処にも剛の姿は見当たらない。
 リビングに戻った光一は呆然と立ちすくみ、整えた髪を掻き毟る。
 明るい声で送ってくれたのはついさっきの事なのに。やはり機嫌を損ねていたんだろうか?
 それにしたって、音も無く掻き消えるとはどういうことなのだろう?
「剛、何処や? 悪い冗談はヤメてぇや。なあ、隠れとらんと出てきいや。連れてったるから……」
 情けない声で行った光一の耳に微かに声が聞こえた。
「光一……光一」
 光一は耳を澄まし、全神経を耳に集中させて声の出所を探る。
「剛か? 何処おんの? 俺が悪かった、一緒に行こ、早よ出ておいで」
「ここや、下や、下! 絨毯のとこ見て。お前の足のトコや!」
 聞き取りにくい小さな声を頼りに自分の足元に目をやった光一は、あんぐりと口を開けてしまった。
「お前……何やってんの?」
 左のズボンの裾に、ナント! 剛がつかまっているではないか。光一を見上げてツンツンと力一杯(?)裾を引っ張っている。
 反対の足を一歩踏み出して、光一は注意深くしゃがみこみ、剛に向かって手を差し出した。するとチビ剛は両手をついてよっこらしょと手の平に這い上がってきた。そのまま床に腰を下ろし、チビ剛を目の前に掲げてみる。
 小さな身体で目一杯叫んだのだろう、顔を真っ赤にしてゼイゼイと肩を喘がせている。
「なんでこんなコトになったんや?」
 との問いかけは、光一としては扱く当然のことである。よくコントなんかでやるカメラマジックなんかではないのだ。
 コントの時は何も無い手に向かって、あたかもそこに相手がいるように演技をし、あとで別撮りした絵をはめ込むのだが―――今現在、確かに剛は存在している。彼らのコマーシャルではないけれど『手の平サイズ』で、光一の手の平の上に。
 そして、それは当の剛にも解らない事で。
「よう解らん。ノド飴ポイって口に放り込んで、ほんで気がついたらミクロキッズ状態やった」
 狐につままれたような表情で頭を掻くチビ剛は、今まで見たどんな小動物よりも愛らしく、思わず頬ずりをしてしまいたくなるくらい可愛くて―――。
 目の前で起こっているのは常識では考えられないことなのに、そんなことはどうでも良くなって思えてしまうほど愛しい存在だった。
「カッワイイ〜」
 と我知らず呟いた光一は人差し指でチビ剛の頭を撫でながら相好を崩した。
「なあ、光一? これやったら大丈夫やと思わん? 誰にもみつからへんで?」
 髪の毛を撫でられるくすぐったさに身を捩りながらチビ剛は得意げに言った。光一と同じく剛も今の状況を楽しんでいるようだった。
「そうかもしれんな。ほな、連れてったるけど……エエか、剛。お前は人形やで、ジッとしとかなアカンで。約束できるか?」
「判ってるって、いつも通りのオレでおったらエエんやんか。まかしとき」
 自信満々で頷いた剛は、小さな小さな両の手で光一のほっぺたを挟むと“チュッ”とキスをした。
「ウッソつけぇ〜」と心の中で反論しつつも、その可愛らしい口付けに、又もやニヘラと相好を崩す光一だった。
 ルルル……。
 ホンワカムードを打ち消すような電話の音に、光一と剛は顔を見合わせ、同時に壁に掛けた時計を見上げる。
 約束の時間を20分もオーバーしていた。
「ウッワァ〜、ヤバッ!」
「光一、急げ! ジャーマネ、カンカンやぞぉ〜」
 まるで他人事のように(イヤ他人事ではあるのだが)チビ剛がからかう口調で言った。それを軽く睨んでみせて―――。
「まあ、取りあえず仕事をこなすことの方が先決や。後の事は――帰ってから考えよか?」
(そんなに楽観的でエエんか?)
 と自分でツッコミを入れながら、チビ剛を大事に大事に胸のポケットに入れた。
「ホナ、行きましょかぁ」
 少々、気が抜けた声で言った光一に、
「オオ! レッラゴウ!」
 剛は意気揚々と拳を振り上げて答える。
「コラッ! 人形が腕上げるな!」
 苦笑混じりに光一はポケットのチビ剛をチョンと叩いたのだった。



 今日のCFの依頼主は某洋酒メーカーで、今流行りのワインの飲み口を更に爽やかでフルーティにしたもの。
『お酒に弱い女性にもワインを楽しんでもらいたい』
『気取らずにラフな格好でワインを楽しんで欲しい』
 というのが企業のコンセプトらしい。
その名も『天使のくちづけ』。
 光一も、今年のお正月で満20歳になった。誰はばかることなくお酒が飲める年になったからと白羽の矢が立った。
 2月には、世の恋する女性達の一大イベント“バレンタインデー”が控えている。コレに照準を合わせてウイスキーボンボンならぬワイン入りのボンボンも発売するらしい。ペアのワイングラスに一つずつ、ラッピングされたボンボンを入れるという。
 こちらは名付けて『告白』
 本来なら彼ら二人のほうが、より売上は伸びるのだろうが、光一よりも3ヶ月ほど誕生日が遅い剛はこの時点ではまだ未成年だ。一緒に使えないのは仕方がないといったところだろう。
 商品を見て、チビ剛も納得したらしかった。
 撮影の間中、ポケットの中でひたすら大人しく息を殺していた。


「あれ? 光一君。そのポケットにはいってるのって、もしかして剛君?」
 一本撮り終えて、一息ついていた光一にメイクさんが聞いてきた。
 ギクリと光一の肩が強張った。
(まさか! 気が付かれた?)
 たまたま選んできた私服がイメージにピッタリだったらしく、着替えることなく順調に進んでいたのに――――。
(撮り直しなんてイヤヤで……)
 自分の目の届かない所にチビ剛を置いとくなんて冗談じゃないと光一は思う。
 好奇心旺盛な剛が大人しくしているわけが無いし、カバンに入れとくなんてのはもっての他。
「ええ? ホント?」
「わぁ、見たい見たい」
 その声に、わらわらとスタッフが集まってくる。
 たちまち光一の周りは黒山の人だかりとなった。
「ええ。ファンの子のプレゼントなんですよ。よく出来てるでしょ?」
 内心冷や汗タラタラで、でもそこはプロのアイドル。そんなことはおくびにも出さず余裕の笑みで答えてみせる。
 ポケットからそっと取り出して、ホラねと見せて上げるサービスなんかもしたりなんかして。
「ホント、よっく出来てるわねぇ〜。まるで生きてるみたい」
(ああ、ホンモノもホンモノ、正真正銘、剛なんやで。カッワイイやろ〜)
「ちょっと見せてね」と横合いから掻っ攫われた時には「あ、ちょっと、乱暴にしないで!」と声を荒げてしまったが。
「あら? そんなに大事? 剛君のこと」
 と、からかうスタッフに、
「そりゃもう!」
 大きく頷き返す。
「だってぬいぐるみでしょ、コレ。それでも大事なの?」
 ヒョイと目の前に差し出したスタッフの手からサッと、でもかなり気を遣って奪い返し、
「当たり前でしょ。大切なファンのプレゼントですよ? 粗末に扱えるわけナイじゃないですか。それに俺、コイツのこと愛しちゃってますもん! ラブラブだよね、俺たち!」
 ギュッと抱きしめて頬ずりをしてみせる。
さり気なく本音をばらした光一に誰も気付きはしない。
気付いたのは、抱きしめられて頬ずりされている『ぬいぐるみのチビ剛』だけ。
“噂”とは、知られたくないと下手に隠すからオヒレがついてどんどんエスカレートし、気が付いた時には収拾のつかないとんでもない事になるのである。
 堂々としていれば変な詮索はされないものだ。>
 その証拠に、相好崩しまくりの光一のことを変な目で見るスタッフはいない。
 チビ剛に向かって話し掛けている幸せそうな光一を、うっとりと見つめているのだから。
「妬けちゃうなぁ」
「ホント、敵わないわねぇ。君たちの仲の良さには」
「羨ましいわ。王子様に愛されるなんてね。ねえ、剛君。お姉さんと代わってくれない?」
「ぬいぐるみに嫉妬しちゃいそうよ」
 なんて、ため息とも付かぬ呟きと共に――――。
 だからそんなスタッフの一言一言に「あかんよ。光一はオレのもんやもん。誰にもあげへんよ」と、繰り返し剛が答えていたなんてコトも誰も知らないのだった。
「さあさあ、おしゃべりタイムはおしまい、おしまい。皆持ち場へ帰った帰った。光一君、もうひと頑張りだ。次もさっさと片づけよう!」
 監督の声に光一はポケットにチビ剛を入れるとセットへと歩いていった。


「はい! お疲れさんでした」
 上着をソファーにポンと放り投げ、光一は床にドッカと腰を下ろした。
「剛もしんどかったやろ? ゴメンな、窮屈な思いさして」
「うん。ちょっと疲れたかなぁ。けど楽しかったで。それに元々オレが無理言うたんやしな……」
 ガラスのテーブルの上に下ろされた剛は大きく伸びをしながら答える。
「でもな、ちょっち淋しかったわ」
 ペタリとテーブルに座り込んだ剛が小さな声で呟いた。
「何がや?」と光一はテーブルに頬杖をつく。そうするとチビ剛と視線がピタリと合う。
「お前―――カメラに向かってええ顔で笑うんやもん。仕事や思てもなんかな……」
「なんかな……って?」
 剛が何を言おうとしているのかはよく判っている光一だった。
 以心伝心、長い付き合いの二人だから、心を許しあった仲だから―――。
 でも、剛の口から聞きたいと思ってしまったのだ。
 意地悪く剛の顔を覗き込むと、判ってるくせに、と剛は唇を尖らせる。
「ホラ――言うて? 剛の口から聞きたいよ、俺は」
「だから……光一のあの笑顔はオレだけのもんやって―――えっ?」
 
最後まで聞かずに光一は剛を抱き上げた。両手で包むとすっぽり納まってしまう、小さくて可愛い剛。
「アホやなぁ、オレはお前にしか笑ってないよ。カメラの中にはいっつも剛だけしか見えてへんもん」
「――――……あほっ!」
 
頬をうっすらを赤くした剛が小さな手で光一のほっぺたを叩く。それすらも愛しいと感じてしまう。
 
でも……。
 
胸に湧き上がる一抹の不安―――。
 
判ってはいたけれど、考えないようにしていた事。
 
光一の不安が剛にも解ってしまったようだった。
「オレ―――どうやったら元に戻れんのかなぁ……」
 睫をふせてポツリと零す。
「俺は小さいまんまでもかまへんけど?」
「オレはイヤや。お前をギュッって抱きしめられへんし、お前にギュって抱きしめてももらわれへん……」
「それもそうやね―――」
 チビ剛を思いっきり抱きしめたら―――想像するだけでも恐ろしい。
 光一は元通り剛をテーブルに下ろして腕を組んだ。
「えーっと、朝は飴を舐めたんやったなぁ。そしたら今度もそうと違うかなぁ……」
 方法なんて判らない。
 もし、一生このままやったらどうしよう?
 剛の不安は光一の不安。それなら二人で考えよう。
 できる事からやってみよう。それがダメなら次の手を……それでも、どうしてもダメだったら―――アイドルを辞めて二人で暮らせばいいだけだ。
 二人なら怖くない。なんだってできる。
「剛と」「光一と」二人なら―――。
 
光一はキャンディポットから赤いセロファンに包まれた飴を取り出した。
「さっきは緑やったから、今度は赤な。メルモちゃんやったらこれで大丈夫なはず―――や」
 努めて明るく言いながらクルリと剥いて剛に差し出した。
「でも、包み紙の色がちゃうだけで、中身は一緒やで?」
「そうやけど。気は心って言うやん?」
「それ…ちょおちゃうような気ィするけどなぁ……」
「ゴチャゴチャ言うてんと、な? 信じるものは救われる……やろ?」
「そうやけど……」
 飴を手に躊躇いをみせる剛に光一は首を傾げる。
「どうしたん?」
「こんな大きい飴、オレ食われへん。口ン中、入らへんもん」
 飴を抱えて途方に暮れている剛に、光一はニッコリと微笑みかける。
「なんや、そんな事か。貸してみ、俺が噛み砕いたるわ」
「ん、お願いします」
 差し出された飴を受け取って光一はポイッと口の中に放り込み、ガリッと音を立てて噛み砕いた。
 そんな光一に剛は見惚れてしまうのだ。
(うっわぁ〜コマーシャルみたいやぁ……カッコエェ)
 光一は見上げている剛の肩を抱き、唇を近づけて―――口移しで飴を押し込んだ。


「光一、光ちゃん! 苦しいって! ちょっと腕緩めてや」
 思いのほか大きな剛の声に光一は我に返り、手の中の、もとい、腕の中のぬくもりに目を丸くする。
「剛、お前……元に戻ってる!」
 弾んだ光一の声に剛も我と我が身を見つめる。
「よかったぁ〜」
 心からの安堵の声に二人は見つめあい、もう一度堅く抱き合った。
 そっと唇が重なり合う。
「チビ剛も可愛かったけど……やっぱり等身大がエエね」
 剛の少し堅い髪に頬を押し付けながら呟いた光一のセリフに剛も頷き返すのだった。


 何時世のも、魔法はキスで解けるもの。

 お姫様の目覚める場所は王子様の腕の中――――。

                                            (END)