Happy Smile
 

「お疲れ〜」
 控え室でギターを抱えてぼんやりしていると、明るい声がした。振り返ると疲れを感じさせない笑顔の太一がいた。
「ああ。太一君。お疲れさまです」
 返す剛を太一は大きな瞳でジッと見つめる。
「おや。又、なんか後ろ向いてる感じ?」
「う〜ん。そんなつもりはないけど…そんな風に見える?」
「まあね。少なくとも前向きには見えないかも」
「そっか…」
「どうしたの? 曲が上手くできないとか?」
 ううん、と剛は首を振り「そんなことはないよ。結構、順調やと思う」と返す。
 二度目のソロLIVEは無事に終了した。冬コンに向けての曲作りも剛的には順調だと思う。けれど…心のに引っ掛かっているもが無いことはない。確かに心は微妙に揺れているかも知れない。そんな剛の心を太一は鋭く見抜いてしまったようだった。
「剛はさ、曲っていつもどこで作ってんの?」
 控え室のまん中にあるテーブルにもたれて、飲み物を手にした太一がゆったりと聞いた。
「どこって…家でやけど。それがどうかした?」
「いや…」と太一は意味ありげに呟くと、紙コップを置いて部屋を出ていく。
 剛はさして気にしたふうもなくギターをもてあそびはじめた。
 暫くして戻ってきた太一は満足そうな笑みを浮かべていた。
 うさん臭そうに見上げる剛を太一は笑みを浮かべて見下ろした。
「たまにはさ環境を変えてみるのも手だと俺は思うんだよナ…って訳で」
 太一は剛の手を取ると紙切れを握らせた。
「…?」
「ハイジにお兄ちゃんからプレゼント。騙されたと思って訪ねてみなよ。何かいいことあるかもよ」
 じゃあ、俺は仕事があるから。お先に〜」
 爽やかに消えていく背中を見送って、剛は紙切れに目を落とした。
「…相変わらず、ヘタくそな字…」

「どうぞ〜。開いてるでぇ」
 ノックをすると柔らかな関西弁で返事が返ってきた。どこかで聞いたことのある声に「失礼します」と声をかけドアを開けると、はんなりとした笑顔にぶつかった。
「リーダー…」
「ああ、剛か。いらっしゃい」
 迎えてくれたのは、太一の所属する『TOKIO』のリーダー・城島 茂だった。
 見知った顔に少しだけ肩の力が抜けた。
「…お邪魔します」
 剛にとってはじめて訪れる貸しスタジオ。コンサートのリハーサルで使っているスタジオとはどことなく雰囲気が違うから物珍しくて見回してしまう。
「今日はオレの貸しきりなんや。誰も来ォへんから遠慮せんと寛いでくれてエエよ」
「はぁ…」
 突っ立ったままの剛に、カンタンに告げると城島はヘッドフォンをしてギターを弾きはじめた。
「寛いでくれていい」といわれても城島は先輩だし、二人きりになるのも初めてだ。先輩の前で「それじゃ言葉に甘えて」と寝転がれるような性格じゃない。となればスタジオですることは一つしか無い。
 剛も腰を下ろしてギターケースを開けた。
 調弦しながら彼の性格そのままの優しい旋律を聞いていた。そしておもむろに城島のメロディを追い掛けるように、彼の音をなぞり始めた。
 自分と違う感性の持ち主が生で奏でるメロディを辿っていくのは、既存の楽譜をコピーするのとは違って不思議な感じがした。
 使っているギターも違えば引き方も違う。だからつむぎ出される音も当然違う。二つのギターが重なりあった音は耳に心地よく、指の動きも滑らかだった。ギターの音色に飲み込まれ剛は何も考えずに音を追い掛けることだけに集中していた。
 ふと、気が付くと城島のギターの音が消えて、剛の音だけがスタジオ内に響いていた。
「エエ曲やね…」
 ヘッドフォン外した城島がしみじみと呟いた。
 剛がひいていたのは、初めてアルバムに収録したオリジナル曲だった。
 弾き慣れた曲だから指がスムーズに動いたのは当たり前だ。
「剛はさ、なにがそんなに不安なんやろなぁ。こんなに綺麗なメロディ作るのに…。真直ぐでストレートに心に響くよね。素直でオレは好きやけどなぁ」
「太一君、なんか言ってました?」
「いいや。アイツはなんも言わへんかったよ。ただオレは予定を聞かれたから、ここを使うことを教えただけ」
「なら…」
 どうして判ったのか? と剛は首を傾げた。
「う〜ん。音聞いてて感じた。って言うたら…ちょっとキザ?」
 城島はちゃめっ気たっぷりに片目をつぶってみせた。剛も笑って「似合わへんかも…」とうなずく。城島は「そうか。やっぱり似合わへんか…」とギターを抱え込んで肩をすくめた。
 彼の笑顔は人を和ませる力を持っていると剛は思う。誰にも警戒心を抱かせず、全てを包み込むような笑顔を分け隔てなく誰にでも向けてくれる。
「少し休憩しよか」
 いうなり城島はギターをスタンドに立て掛け、なにやら用意を整えて部屋のまん中に胡座をかいて座った。おいでおいでと手招きされて剛も城島に向かい合うように座った。
 ポットとカップを剛に渡し、自分はミニボトルのキャップをあけると備え付けてある冷蔵庫から取り出した氷をグラスに放り込み、琥珀色の液体を半分ぐらいまで注ぐ。馥郁とした香りがグラスから立ち上った。
「…酒?」
 目線の高さにグラスを持ち上げ、軽く揺らすと城島はうなずいた。
 グラスに触れて氷が涼やかな音をたてた。
「剛もこっちの方がエエか?」
 聞かれてフルフルと首を振りポットを傾けた。こちらは暖かい紅茶だった。
 酒は嫌いではないけれど、昼間から飲むのはやはり気が引ける。
「好きな酒と好きなギターに囲まれて過ごす一人きりの時間。オレにとっては至福の時やねん」
 乾杯。と城島は剛のカップにグラスをぶつけた。
「オレは時々、こうやって好きな酒片手にギターと戯れるんよ。なにも考えんと、普通の34歳の男に戻って思いっきりギターを引きまくるんや」
 旨そうに一口嘗めて、楽しむように口の中でウィスキーを転がしている。本当に幸せそうな城島の笑顔に剛は肩のから力がすべて抜けるのを感じた。両手でカップを包み込んで少し甘い紅茶を口に含む。
「ストレス発散のため?」
 そうそう。と微笑む城島に「リーダーでもストレス溜まるの?」と問いかける。
「コラッ! リーダーでもってなんやねん。失礼やぞ」
 城島は笑いながら拳を振り上げた。剛が首を竦めて「ゴメンなさい…」と口にすると、その拳は思いも寄らない優しさで剛の頭を撫でた。
「まぁな、このキャラやからなぁ。そう思われても仕方ないけどな。自分に与えられたキャラは嫌いやないし楽しんでるところもあるけど、やっぱり少なからずストレスは溜まるわなぁ」
「責任感…」
 もれた言葉に城島はウンウンとうなずく。
「まあそこまで大層なもんやないけどな。制約の多い事務所やし世界やろ? 上からはコレしたらアカン。こうせなアカンって言われるし。おまけにウチのメンバーは素直にリーダーに従うようなヤツ等とは違うし。その間で頑張ってるわけなんよ、オレも。そやからどこかでガス抜きせんと一杯いっぱいになって爆発してしまうやろ? そうなったら困るんは事務所でもメンバーでも無くて自分自身やからね。長く生きてても許容量ってのは増えていかへんからね」
 城島の言うことはよく分かる。正しく剛が考えてきたことだから。
 ジャニーズだから、ニコニコ笑って踊ってればいい。
 歌もそんなに上手く歌わなくていい。
 クオリティなんて考えなくてもいい。
 だってアイドルなんだから…。
 歌番組の添え物でイイなんて何時の時代のアイドルだ。
 アイドルは人形じゃない、主張したいこともプライドもある。
 仕事に対する責任感は人一倍あるのだ。
 年長の城島との会話は光一とでは感じられない空間を作り出してくれる。
「剛は何のためにギターを弾くん?」
 グラスをもてあそびながら城島が聞いた。
「何のためって自分のためかな。ギター弾くのは好きやし、詞を書くのは好きやし…」
「そしたら、なんのために詞を書いてそれに曲をつけるん?」
「詞を書くのは自分の考えを整理するため…かな。曲は詞を書いてると自然と浮かんでくるような気がする」「曲が浮かんでくるって言うのは誰かに聞かせようと思ってるから?」
「多分。俺っていう人間を知ってもらうのに一番分かりやすい方法やと思う」
「それやったら。別に誰かに認めてもらう必要はないのと違う?」
「……」
「剛の音楽を認めてくれる人が一人でもいたら充分やと思う」
 禅問答のような城島とのやり取りは、剛の迷いを明確にしてくれる。
「皆に判って欲しいって言うのは間違いなんかなぁ…」
「間違ってるとは言わへんよ。でも“餅は餅屋”って言葉があるやろ? オレ等はジャニーズ事務所に所属してる芸能人。相手は違う事務所の所属。人間だれしも今の自分に満足してるわけやない。上昇志向は常に持ってるハズ。上を目指すかその場に留まるかはその人次第や。剛の曲に文句をつけた人間は、剛の事が恐かったんやろな」
「俺が恐い?」
「そう。ダンスも歌も平均点以上。事務所の力が働いてるとはいえ4大ドームを満員にできるファンもいる。それだけで十分やのに、まだこっちの世界に進出しようとするんかい! ってな感じ。で、それがこっちの世界でも通用するぐらいの力をつけて、またその曲がエエもんやから、慌てて排除しようと考えた。それがストレートに言葉となって剛を襲ったということやとオレは考えるな」
「リーダー、俺のこと買い被りすぎ」
「かもしれんけど。そんな感じのことやと思うンよ。剛かって自分の進もうとする道を誰かが塞いでたら腹が立つやろ?」
「それは、そうかも」
「それを口に出すか出さへんかはその人の資質次第。大体な、アイドルがソロコンやるのにビビッてどないすんねん。プロやったら自分の音楽つーかプレイに自信もてよ! ってオレなら言うなぁ」
「リーダーは自信もってプレイしてるンや?」
 当たり前。と城島は言う。
「中途半端が一番アカンと思うのよ。オレは『TOKIO』のギタリスト。独り外の世界に出たら“ギタリスト”なんて恥ずかしくて大きな声ではいわれへんよ。けどな、TOKIOの中では立派なギタリストやっていう自負がある。ファンを楽しませたいって気持ちもある。だからできる限りの事をやってる。ギター一本で食べてる人からみたら、甘いなって言われるかもしれん。でも、少なくともオレ等は選ばれた人間なんや。思い上がった言い方かもしれんけど、そう思ってんと潰れてしまう。一人でもオレのギターに耳を傾けてくれる人がおるんなら、オレはその人の為だけにギターをひくよ。いつかその輪が広がっていくことを信じてな」
 強く吐き出される言葉の中に剛は穏やかな笑顔の向こうにある城島の強さみたような気がした。
 飄々としていても、道化役を与えられても、一本芯が通っているからから城島は揺るがないのだ。だから長瀬をはじめとする個性豊かなメンバーが城島についていっているのだ。
「剛は一体、だれに認めて欲しいん? プロのミュージシャンの仲間に入りたいんか?」
「それは…」
 剛は口籠る。
 自分でもよく解らなくなってきている。
 関わる人皆に自分の事を知って欲しいと思う。少しでも自分の考えを理解してもらえ共感してもらえたらと思っている。けれどそれが上手くいかなくて身動きがとれない状況になってしまっていると自分でも思う。
「誰かって万人に認めて欲しいって思ってる。でも一足飛びにはムリやろ? 長い下積みの時代を経て世に出てくる人かって多いし。なりたいと思っても中々なられへん世界にオレ等はいてる。発表の場を与えられてるってことだけでも有り難いと思わな…」
「それは解ってるし。このままやったらアカンってことも頭では解ってるんや。けど、中々一歩が踏み出されへんくて。それで光一に迷惑をかけてる…」
「光一がそう言うたんか?」
「光一はそんなこと一言も言わへん。それがよけい辛い」
「そしたら一回、コンビ解消してみたら?」
「ええっ!?」
 一体、この人はなにを言い出すんや。
 剛は目を信じられない思いで城島を見返した。対する城島は、
「迷惑かけてるんが辛かったら別れたらエエ。無理する必要ないやんか。この際、ハッキリキッパリ解散したらエエのよ。それで剛がノビノビできるんやったらその方がええやん?」
 こともなげに言い放ち、面白そうに「いっぺん想像してみ?」と笑った。そうして城島は静かにグラスを傾けはじめた。
 言われた通り剛は瞳を閉じて、一人の自分を思い浮かべた。
“KinKi Kids”というホームグラウンドから離れた“堂本 剛”一個人としてステージにいる自分。
 いきなり心の中が心細くて不安で一杯になったので、ゲストを投入しようと考えた。
 城島に始まり、長瀬・岡田…思い付く限りゲストをとっ替えひっかえしてみたが―――結局、落ち着いたのは光一だった。
 光一との掛け合いは楽しくて面白い。彼を退場させてからも剛は自分が笑顔で歌っていることに気がついた。
 パッと目を開いた剛はウイスキーを嘗めている城島の前で手を振った。
「アカンアカン。解散するなんてできないです。俺の相方は光一しかおらんもん!」
 ニヤリと城島が人の悪い笑みを浮かべた。
「えっ…と。リーダー?」
「わかったやろ? 短い付き合いやないんやから相方が苦しんでるなんてことはお見通し。でも剛の事を信じてるから。コイツは一人で立ち直れるって解ってるから。光一はなんも言わへんのやろな。まあ、オレは光一と違うからハッキリしたことは分からへんけどナ」
 城島は言うけれど、きっと光一も同じ考えだろう。
 それはこれまでを振り返ってみれば解ることだった。
 決して光一はせかしたりしなかった。前進するスピードをゆるめながら剛が追い付いてくるのを待っていてくれた。
「なんや今日のリーダーがカッコよく見える…」
「今日だけと違うで。オレはいつでもカッコイイ…」
 セットしていない洗い晒しの髪の毛を、城島はサラリとかきあげウインクしてみせる。
 らしくない仕草に吹き出した剛に、すこし悲し気な視線を投げた城島もつられるように吹き出した。
 そして思い出したように二人は飲み物に口をつけ、用意されたお菓子にも手をのばした。
「リーダーも長瀬や太一君の考えてることが解るんや?」
「はあ? そんなん解るわけないやんか。別々人間やのに」
「えーっ、そしたらさっきオレに言うたことはウソなん?」
「ウソやないよ。それこそさっき言うたやろ。信じてるからやって。10年以上かけて築き上げてきた関係が、そうカンタンに壊れてたまるかいな。皆が同じ思いを持ってるから、言いたいこというてもケンカしてもやっていけるんや」
 剛と光一もおなじやろ? と逆に聞かれて剛はうなづく。
「でもオレって、相当甘やかされてるよなぁ光一に」
 しみじみ呟く剛に城島は笑みを深くする。
「好きなんちゃうか甘やかすのが。オレもメンバー甘やかすの好きやもん。そやから反対に甘やかしてくれたらオレは滅茶苦茶嬉しいで…」
「甘やかす…って、リーダーの健康を気づかってくれたり、労ってくれたりとか?」
 無邪気に聞くと「コラ! 失礼なこと言うな! オレは充分若い!」と、今度は本気で叩かれた。
「痛いなぁ。暴力反対!」
 上目で睨む剛の心の中はいやにスッキリと晴れていた。
 全部が晴れたと言えば言い過ぎだけど、自分のままでイイと言ってくれる人が光一以外にもいる。
 それだけで心を覆っていたモヤが晴れていくのだ。
(リーダーにも太一君にも感謝せんとな…)

 ウイスキーをすっかり飲み干した城島は「さてっ!」と腰を上げた。
「オレはもう少しギターを弾くけど、剛も弾いていくか?」
 城島の提案をよそに剛はイソイソとギターをケースに片付ける。
「オレ、やらなアカン事思い出したんで、これで失礼します」
 ありがとうございました。と剛は律儀に頭を下げた。
「そうか。ほんなら気ィつけてな。又、おいでや」
 迎えてくれた時と同じように簡単に告げて、城島はヘッドフォンをつけると自分の世界に戻っていった。

 ギターケースを抱えて剛は表に飛び出した。
 訪ねてきた時よりもその足取りは遥かに軽かった。

「光一…」
 突然、頭の中に響いた声に光一は頭を上げた。
(剛の声が聞こえるなんて、相当、疲れてるな俺)
 気付かれないように一人で苦笑し、凝りをほぐすように首をグルリと回した。すると入り口のドアが細く開いていることに気付いた。
 声が漏れないように、ドアはきちんと閉めたはずなのに…と、首を傾げながらドアを閉めに席を立った光一は、細く開いた隙間から覗く見知った瞳を見つけて大きく目を見開いた。
(剛が、なんで?)
 頭の中に「?」を張り付けたままで光一はいったん視線をドアから外すと「中々いい案って浮かばないもんやね。俺ちょっと頭冷やしたいからちょっと休憩しません?」とその場にいるスタッフに言った。
 揃って台本を睨んでいたメンバーの肩から力が抜け、全員が素直にうなずいた。
「じゃあ10分後に再開ってことで」と言葉をかけ、光一は廊下に出た。
 廊下はシンと静まり返って人がいたような気配はなかった。
(気のせいか? でもアレは確かに剛やったよな?)
 どこかフに落ちない気持ちで自販機に足を向けた光一は腕をつかまれ隣の部屋に引きずり込まれた。
 叫び声をあげなかった自分を光一は誉めてあげたいと心から思った。
 腕をつかんでいたのは紛れもなく剛だったのだ。

「お疲れさん光一。あんな、オレもう大丈夫やから。心配かけてゴメンな」
 後ろ手にドアを閉めて、剛は一気にまくしたてる。
 なにがどうなって剛がここにいるのかとか、剛はなにが大丈夫だと言うのか、そしてなにがゴメンなのか―――聞きたいことは山ほどあるのに、目の前にある顔がこれまでと打って変わって晴れ晴れとしているのに、そんなことはどうでもよくなってしまう。
 久しぶりに見る剛の笑顔が眩しくて、それまでの疲れが一気に吹き飛んでしまう。
 やっぱり俺の元気の源はこの笑顔やなぁ…なんてしみじみ思う。
「それよりお前、なにしにきてん?」
 惜しみない笑顔を向けてくれる相棒に対して「なにしに来た」はないだろう。それでも剛は気を悪くしたふうもなく「陣中見舞い!」と更に笑みを深くした。
 その剛の笑顔がフッと曇る。光一の腕を掴んでいた自分の手を見つめて首を捻っている。
「どうした?」
「うん…光ちゃん、ちょっと痩せた? ちゃんと食べてるか? 仕事キツイ?」
 畳み掛けるように聞かれて光一は目を白黒させながら、思い付くまま言葉を並べた。
「キチンと食べてるし仕事は…キツクとは思わんけど、冬コンの事とか新曲の事とか舞台の事とか…考えることややらなアカン事が山積みで頭の中がちょっと飽和状態になってる気はする。そやからちょっと寝不足気味で…でも体重は変わってへんよ」
 全部、自分で選んだことだから全てにおいて全力投球でいきたいけれど、寝不足は確かに身体に堪える。思考が上手くまとまらないのは本当に困るのだ。
「あんまりムリすんなよ。一人で抱え込まんとたまにはオレに甘えなさい!」
 珍しく弱音を吐いた光一の肩を叩いた手で、今度は自分の胸をポンと叩いた。
「ええっ?」
「KinKiの仕事の事はオレに任せて、今は自分の舞台に集中しなさい! って事や…って事で。あんまり邪魔しても悪いから、オレは帰るね」
 やってきた時も突然なら帰る時も突然で。
 バイバイと手を振る背中に頼もしさが伺える。
 剛の中でなにかが吹っ切れたことだけは、思考能力の低下している光一にも解った。
「ちょっと待って、剛!」
 後ろ姿に声をかけ「なんやぁ?」と、のんびり振り返った身体を素早く己に引き寄せる。
「早速、甘えてもエエかなぁ…」
 伺うように聞くと、コクリと頭が上下する。
「んじゃエンリョなく!」
 言うが早いか光一は剛の身体を思いっきり抱き締めると、ふっくらとした唇にそっとキスをした。

(さあ、チャッチャと台本進めるで〜)
 身じろぐ剛を更に深く腕の中に閉じ込め、光一は堅く誓ったのだった。