ラヴ ミー テンダー
act.2

「はぁ〜、今日も暑くなりそうだなぁ…」
 遠慮なく照りつける太陽を見上げながら、僕はズボンから引っ張り出したタンクトップの裾で額に流れる汗を拭いた。

 夏休みに入って二週間が過ぎた。
 約束通り加賀は僕の家庭教師となっている。学校で補習を受けた後、加賀と待ち合わせてお昼を済ませ図書館の自習室へ直行する。昼過ぎから図書館が閉まる5時までが僕たちの時間。必死で問題集と格闘する僕の隣で彼は涼しい顔で詰め将棋なんかをやっていたりするのだけど。
 でも、どんなつまらないことでも質問すれば馬鹿にしないでキッチリと答えてくれるし、教え方も解りやすい。
 その後、たまに碁会所やゲームセンターに寄り道してささやかなデートを楽しんだり……甘い恋人同士って訳にはいかないけれど穏やかに時間が過ぎていく。
 こんな日が来るとは夢にも思っていなかったから毎日が楽しくてあっという間だ。
 一昨日で前半の補習が終わった。だから図書館通いも暫くの間休み。逢えないのはつまらないけど仕方が無いよね。だって加賀は夏休みに入ってから土・日関係なく付き合ってくれたから。自分の用事だってあっただろうに僕に合わせてくれたんだ。
 加賀だって休みが欲しいだろう?―――そう言ったら加賀は少し驚いた顔をしていたけど「そうだな」と頷いた。  
 なのに、昨日一日、顔を見られなかっただけの事なのにたまらなく淋しい……。
 こんなこと片思いしていた時は思いもしなかった。加賀の事を考えるだけで幸せだった。でも、加賀に触れてしまったらダメだ。
 抱きしめてキスして……それ以上のことを望む僕がいて―――。
 どんどん貪欲になっていく自分が怖かった。
 でも、それを止めることも出来なくて――――。
(逢いたい……顔が見たいよ加賀―――)
 そっと唇に手を当てた。金曜日の夜、別れ際に交わしたキスを思い出して身体が小さく震えた。
 次に会える日まで、まだ十日以上あるのに……。
 こんなことでどうするんだよ! しっかりしなきゃ。
 気分を変えて水撒きようのホースに手を伸ばした時「公宏、公宏ってば!」めかし込んだ母さんが顔を覗かせた。
「あっ、何、母さん」
「何じゃないわよ。母さんそろそろ出かけるからね」
「ああ、クラス会だっけ?」
「そうよ! 今日は遅くなるから、お夕飯は冷蔵庫の中ね」
 言いたいことだけ言うと母さんはパタパタと廊下を走って行く。
 全く! 受験生の息子がいるって言うのに暢気なもんだよね。まあ、それも判らなくないけど。
 いつもなら粗大ゴミになってる父さんも昨日から接待ゴルフに出かけていないし。
 僕にしたって煩く言われないから嬉しいし。
(ゆっくり楽しんでおいでよね……)
 弾むように小さくなっていく背中に小さく声を掛けた僕は、電柱の下に僅かに伸びている影に気がついた。
(まさか、そんなことが?)
 ホースを手にしてフェンスに駆け寄る。
「……そこに居るの、もしかして加賀?」
 僕の声に影が小さく揺れ、ヒョイと加賀が顔を見せた。
「何時からそこにいたの、汗びっしょり……」
「小一時間ぐらい前から……だな」
 水を被ったような前髪をかきあげながら、なんでもない口調で加賀が笑う。
 小一時間前って……何でもない事のように言うけど……。
「笑い事じゃないよ! 夏の盛りの昼間だよ。日射病にでもなったらどうするつもりなのさ!」
 憤慨したように言っても加賀は何処吹く風で庭に入ってくると、僕の手元に目をやり「なあ、それ水でるのか?」とホースを指差した。
「ああ、うん」
「なら出してくれ」
 ホースを加賀に渡して僕はコックを捻る。
 暫くの時間を置いて水が勢いよく噴き出した。上体を傾けて加賀はその水を頭から被り、口をつけてゴクゴク
と飲んでいる。一しきり水を飲んで満足したのか加賀は顔を上げ、頭を軽く一振りした。
「おーっ、生き返ったぜ。サンキュー筒井」
「生き返ったってね……」
 呆れて見つめる僕に何を思ったのか加賀はホースの先を向け、先を潰して上下に振った。
 夕立みたいなシャワーを避けるように、あんまり広くない庭を走りまわる僕を笑いながら追いかけていた加賀が不意に足を止め、後ろから抱きしめてきた。
「何、加賀……苦しいって……」
 足元で容赦なく水を流すホースを気にしながら抗議の声を上げた僕を更に強い力で締め付けて加賀は「逢いたかった……」と耳に息を吹き込むような声で囁いた。
 冷えていた体温が一気に跳ね上がる。
(加賀も……加賀も同じ気持ちだった?)
 そう思っただけで加賀に触れられている場所が熱を持ったように熱くなって心臓が今までの倍の速さで鼓動を刻み始める。
「……着替えようよ、濡れたままだと風邪を―――」
 気付かれたくなくて早口で言ってみたけど、
「夏の最中に風邪なんかひかねぇよ」
 加賀は全く取り合わず僕を抱く手を緩めてはくれない。それはそれで嬉しいんだけど、ココは住宅街で誰かが通らないとも限らない。
 他人に見られるのはやっぱ恥ずかしいって思う僕の気持ち、少しは解って欲しいよ!
「そりゃそうだけど……でも、気持ち悪いし……」
 適当に誤魔化しておんぶおばけ状態の加賀をズルズル引きずって僕は家の中に入った。
 
 貸してあげたTシャツを着て加賀は大きく空けた窓辺に佇んでタバコをふかしていた。僕が入ってきたのにも気付かないで考え込むように一点を見つめるその姿が妙に様になっていて僕は思わず見惚れてしまった。
 同い年なのに、僕より遙に大人の男って感じだよね。
「エアコンつければいいのに……」
 わざと音を立ててトレイをテーブルの上に置き、リモコンのスイッチを入れる。
 窓を閉めようと伸ばした手を掴まれて引き寄せられた。
 僕の身体はすっぽりと加賀の胸に収まってしまった。
「ちょ……加賀―――」
 身じろぐ僕を容易く両腕で閉じ込めて、加賀は髪に顔を埋め、「おふくろさん、出かけたんだろ?」と聞いた。
(電柱に隠れて見てたくせに……)
 そう言う意味をこめて見上げた僕の視線と加賀の視線がぶつかった。ゆっくりと加賀の唇が下りてくる。
 僕はまぶたを閉じてそれを受け止める。
「なあ、筒井……お前は? お前は俺に会いたくなかったか?」
 キスの合間に加賀が囁く。
 うっ、そんなにストレートに聞かないでよ――――。
 黙ってると加賀が耳朶を齧り「なあって……筒井」と吐息混じりに返事を促す。
「……逢いたかったよ……昨日一日会えなかっただけで淋しくて淋しくて……」
 堪えていた思いが零れてしまった。
 ああ、言いたくなかったのに……これじゃ、僕が物欲しそうに見えるじゃないか。
 恨めしげな目を向けた僕に加賀は唇の端を上げる何時もの笑い方で微笑んで「それでいいんだよ」と音を立ててキスをした。

「……ちょ、ちょっと待ってよ、加賀……こんな、いきなり……」
 お互いに逢いたかったんだって分った途端、深くなったキスに眩暈を覚えてしがみ付いた僕を加賀は軽々と抱き上げてベッドに落とした。
 その乱暴さとは裏腹に優しいキスが顔中に落ちてくる。焦るようにタンクトップを押し上げ、唇の輪郭をなぞるように舐めた舌がそろそろと移動をはじめる。
 首筋から鎖骨を通って身体のあちこちにキスを落としながら、加賀の熱くて柔らかい唇が僕の身体を余すところ無く嘗め尽くしていく。身体中の神経が剥き出しになったみたいに、何処を触られてもゾクリとする。それは――何ていうのか……その気持ち悪いものでなくて―――。
「……んっ……ああん――――」
 突然、胸の突起に舌を這わされて思わず声を上げた。
 自分でも信じられないくらい甘い声だった。
 どうして? こんな場所、感じるのは女の人だけだと思ってたのに…。
 でも舌で転がされ指で弾かれるたびに、背中を経験したことのない感覚が駆け抜けて身体が意思に反して震えてしまう。
 僕の気持ちなんてお構いなしに僕自身が反応しはじめる。
「……おかしい……よ」
「んあ? 何がおかしいって?」
「だって……こんなトコ……」
「感じるんだろ?」
 戸惑うように発した声に加賀が伸び上がり僕の顔を覗き込んだ。
「ん……でも、僕は、男なのに……」
 言いながらも指で転がされる感触に身体が跳ねる。
「男でも女でも、イイとこ突かれりゃ感じるんだよ。囲碁でも何でも定石通りに考えるの、お前の悪い癖だぜ。こういう時は自分の感覚に素直になれよ……」
 なっ? と加賀は片目を瞑って見せた。
 そんなこと言われたって……。
 この話はここで終わりとばかりに加賀は乳首への愛撫を再開させた。
「全くよ…俺の理性がココまで持ったのが不思議なくらいだぜ……」
「あっ…んぅ――加賀、それって……どういう……」
「ああ? うるせぇーぞ。後で教えてやるから、今は静かにしてろ……何も考えずに俺に任せてろって……」
 面倒くさそうに、それでも優しい声で言いながら加賀の唇は胸から脇腹へ移動した。
 途端に漏れそうになった声を僕は必死に飲み込んだ。唇をかみ締め、シーツを掴む手に力を込める。そうしていないとどうしようもなく声が出てしまいそうな気がして――――。
「バカ……声は我慢しなくていいんだよ。感覚に素直になれっていってるだろ……」
 加賀が何か言ったような気がしたけど僕は聞いちゃいなかた。
 短パンを下着ごと引き摺り下ろされた時も、普通なら恥ずかしく思うはずなのに五感の全てが加賀に支配されたようにその手を、唇を追いかけ始め、身に覚えのある感覚が一点に集中し始めるのを止めることが出来なかた……何も考えられない……頭が白く霞んでいく―――。

「ひっ……あっ―――加賀、加賀……やめて―――んっ」
 痛いくらいに張り詰めたソコを暖かいもので包まれて、白濁した意識がクリアになった。でもそれはホンの一瞬で、再び僕は快楽の波に攫われた。
 自分でするのとは全く違う、何が違うのか言い表すことは難しいけど、でも……こんな激しい突き上げてくるようなの経験したこと――――ない…。
 身体がフワリと持ち上げられるような高揚感に僕は慌ててシーツにしがみ付いた。目の前に星がちらついている。
「加賀……加賀ぁ……―――もっ…………イヤ…離して……」
 訴えても加賀は一向に放してくれる気配は無くて、引き離そうともがいても、より強く押さえ込まれるばかりで。
 もうどうしていいか分からないよ……このままじゃ―――。
「ひっく……あぁぁぁぁ――――――」
 一番敏感な部分に歯を立てられて吸い上げられた瞬間、硬く瞑った瞳の奥に白い光が走って―――我慢しきれずに僕はイってしまった、しかも加賀の口の中で。おまけに加賀はそれを飲み込んじゃうし――――もう、泣きたい…………。
「何だよ、ヘンな顔して――好くなかったか?」
 恨めしげな顔で加賀を見た僕の前髪をかきあげながら加賀が聞いた。
「そんなこと……」
 どう答えていいか分からないこと聞かないでよ―――。
「でも、あんな格好してるお前がわるいんだぜ……」
 加賀を睨む目に力を込めた僕に加賀が覆い被さってきて、耳元で囁いた。
「えっ?」
「タンクトップに短パンなんてさ、露出しすぎだぞ。誘ってるとしか思えねぇもんよ」
 だって、だって暑かったから―――答えようとした声は加賀の唇に塞がれて喉の奥に消えていった。
「誰にも見せんなよ、あんな格好。襲われでもしたらどうするよ」
「僕を襲う物好きなんて加賀しかいないよ」
「そう願いたいもんだな。けど、それだけ憎まれ口たたけりゃもう……」
 大丈夫だな? と確認するように抱きしめてきた加賀の身体に腕を回して抱きしめ返した。
 それが僕の返事。
 次に何が起こるのかは解っているようで解っていないのかも知れない、でも僕は加賀が欲しかった。
 ニヤリと笑った加賀がフラリと身を起こしTシャツとGパンを脱ぎ捨てるのをぼんやりと眺めた。
 同じインドアの部活をしてるのに加賀はスポーツマンのように浅黒く引き締まった身体をしている。
 何処もかしこも色白でひ弱に見える僕とは大違いだ。
 そう……アソコだって―――。
 脱ぎ捨てられた下着から勢いよく飛び出してきた加賀のアレは太くて逞しくて――――お腹にくっ付きそうなほどだった。
「いい眺めだな……」
「あっ!」
 加賀の裸体に見惚れるあまり、自分の身体を隠すことを忘れてた! 僕は慌ててタオルケットを引き寄せる。
「なぁにやってんだよ」
「だって……恥ずかしいじゃないか……」
「今更だろ?」
 形ばかりの反論をものともせず加賀はベッドに乗り上げると勢いよくタオルケットを捲った。
 あっという間もなく僕は加賀に抱きすくめられ唇を塞がれる。
「……隠すなよ―――俺しかみてないんだからよ」
 キスの合間に耳に吹き込まれる吐息が熱い……お腹の辺りに押し付けられた加賀の高ぶりも……熱い。熱くて……それだけで息が上がる。
 達ったばかりの僕自身が又、目覚め始める。
 僕は目を閉じて腕を回し首筋にそっと唇を押し付けた。ピクリと加賀の身体が跳ねる。なのに加賀は何も仕掛けてはこない。それを不思議に思って目を開けると何ともいえない色をたたえた加賀の瞳と僕の視線がぶつかった。
「……加賀?」
「……俺、お前のこと壊しちまうかもしれない…」
 何時になく気弱な加賀のセリフに僕は目を見開いた。
「じゃあ、止めとく?」
「…………筒井?」
「それは冗談だけど、でも僕は加賀と一つになりたいよ……僕を加賀のモノにしてよ」
 零れた言葉は真実だった。
 物欲しそうだって笑われてもかまわない。
 思いが手に入ったら身体も……って思うのは当たり前のことだ。
 もう心を隠したくなんか無かった。
「けどよぉ……」
 首筋に顔を埋め、僕を抱きしめたままで加賀は言いよどむ。
「そんなの加賀らしくないよ。いつもの自信に満ちた加賀は何処へいったんだよ」
「んなこと言うけど、これからどんなことするのかわかってんのかよ」
「……うん、解ってるつもりだよ?」
「ホントかぁ」
 更に疑わしげな加賀に僕は力一杯頷いた。
「……加賀がね僕のこと、大事に思ってくれてるのはよく解るよ。でもね、僕だって男だよ。そんなに簡単に壊れないよ。だから、大丈夫だから……」
「泣こうが、喚こうが止めねぇぞ、それでもか?」
「うん……大丈夫だよ。それに――――」
 恥ずかしかったけど僕は言葉の代わりに腰を押し付けた。
 僕のソコは話しているうちに、どうしようもないところまで来てしまっていて、本当は会話するのだって息が上がらないようにと必死だったんだ。
 いい根性だ…と呟いた加賀は、素早く身を起こすと僕の身体をクルリと反転させた。

「あっ……ああっ―――ヤッ、イヤッ……加賀ァ―――」
 緩急をつけて抜き差しされる指のリズムに僕の口からはひっきりなしに悲鳴が漏れる。こらえようと唇をかみ締めても隙間から漏れてしまう声を止められない。
 シーツに頭と胸をつけて腰を高く上げて―――とても人には見せられない格好で、自分で見たことも触ったことも無い場所に加賀の指を受け入れている。
 遠慮なく突き入れられた加賀の指が襞を押し開くように中で動くのに不快感を覚えたのは最初のうちだけで、今では節の高い指で擦られる度、ソコから何とも言えない痺れが生まれている。 
 ゆっくりととろけてくるのが自分でも解るほど感じてて……自然と腰が揺れた―――。
「あっ! ……えっ?」
 不意に指が引き抜かれ、真っ白だった世界が一転する。
 加賀と真正面から向かい合った。
「……後ろからすんの好きじゃねぇんだ、顔見て入れたいんだけど、いいか?」
 照れたように加賀が笑うのに、いいよと僕は頷く。
 ホントのこと言うとさ、僕だって怖かった。顔が見えないって堪らなく不安になるんだ。加賀じゃない誰かじゃないかって……そんなことあるわけないのにね。でもホラ、こうして加賀と向き合ってると不安な気持ちなんて何処かに行ってしまってる。
 膝を胸につくくらい折り曲げられて、加賀がゆっくりと入ってくる。
「んっ……いたぁ……」
 指とは比べ物にならないくらいの質量に思わず息を詰めた。
「……ちゃんと息しろよ、でないと余計辛いぞ?」
 言われるまま僕はそっと息を吐く。
 ホントだ、随分と楽になった。それでも内臓を押し上げるような感覚は治まらなくてやっぱり息を詰めてしまう―――その度に加賀はキスしてくれて……そんな事を幾度か繰り返して、加賀の全部を納めたときには二人とも全身汗まみれだった。
「ツライか?」
 汗で張り付いた前髪をかきあげながら加賀が覗き込んできた。
「ううん、平気……ちゃんと入った?」
 ああ、と加賀は頷き僕の手を引っ張って触らせてくれた。
「……解るか? お前の中、キツイけど中々いいぜ」
 恐る恐る触れたソコは目一杯まで広がって加賀をしっかりと受け止めていた。
 そっと背中に回して加賀が抱きしめてくれる。
「あっ……」
「どうした?」
 心配そうな顔で加賀が見下ろしてくるのに「なんでもないよ」と首をふる。
 だって言えない。ホンの少し加賀が動いただけで僕の中を震えるような快感が走ってくなんて――――。
 でも、ホントにそうなんだ。初めてなのに加賀が中にいるって言うだけで僕の身体は喜びに震えてるんだから。
「ねえ、加賀? 動いてもいいんだよ」
 首に腕を絡めて言ってみると加賀の目は又、丸くなってシゲシゲと僕を見つめる。
「……お前って……」
「何?」
「結構、大胆な奴だったんだなぁ」
「そ、そうかなぁ?」
「そうだよ、でも嬉しいけどよ」
 ニヤリと笑った加賀は「んじゃ、お言葉に甘えて……」と言うなり抱きしめる腕に力を込めた。
 
 言葉なんて必要なかった。加賀の熱を感じながら思い切り揺さぶられて――――僕はその度に声を上げていたように思う。
 好きな人と身体を繋ぐ事がこんなに気持ちのいい事だって知らなかった。そりゃ男同士だから常識からいったらおかしいのかも知れないけど……。でも、後悔なんてしない。僕が望んで加賀も望んでくれた事だから。これから先、僕達の関係がどうなっていくのかなんて想像もつかないけど、今はこれで充分幸せだ。
 でも負けちゃいられない。
 加賀に馬鹿にされないように頑張らなくっちゃ――――これまでだって負けないようにと頑張ってきたつもりだったけど、これからはいつでも肩を並べていられるように、守ってもらうばかりじゃなくて加賀にも頼りにされるような男になりたいって思うよ。
「なんだよ、妙な顔して……」
「見惚れてるんだよ、いい男だなぁってさ」
「なっ……!」
 僕の隣で加賀が見事に真っ赤になって、咥えていたタバコに思いっきりむせた。
「ちょ、大丈夫?」
 僕は慌てて上体を起こし加賀を覗き込む。起き上がるときに感じた痛みにホンの少し顔を顰めた僕を、見上げながら加賀は「……ああ」と答え、そのあとシゲシゲと僕の顔を見つめた。
「――――何?」
 訳もなく頬が熱くなる。
「……ったくよぉ、大した奴だぜお前はよぉ」
「えっ、そうかな?」
「そうだよ。この俺様を骨抜きにするんだからな」
「……どういう意味?」
「身体の相性がいいって事だよ!」
 どうしてそう恥ずかしい事をシレッと言うかなぁ……。
 でも、そうかもしれない。僕だって身体の奥に残ってる痛みをたまらなく幸せに思うから。
「でも、当分はお預けだね……」
「なんでだよ!」
 不満げに唇を尖らせた加賀に僕は笑いかける。
「勉強を優先しなくちゃ―――だろ? 揃って同じ高校にいけなきゃ意味がないじゃない」
 それもそうだな…と納得したように頷いた加賀はタバコを灰皿代わりの空き缶に押し込むと僕に覆い被さってきた。
「そう言うことなら、もう1ラウンドな」
 楽しげに片目を瞑って見せた加賀に「どうしてそうなるかなぁ」と顰め面をしながらも僕はそっと首に腕を巻きつけた。
                                             (おしまい)